勉強と称して地図ばかり眺めていたこどもの頃は、県庁所在地のみならず、大きな市はだいたい覚えていたものだが、今時では市の名前など聞いても、どのへんにあるかなど、およそ見当もつかない。稲敷市という名もほとんど意識の中になかったが、前回の岬めぐりで美馬村の稲荷ノ鼻に向かうため乗っていた自転車を追い越して行ったバスの行き先が「江戸崎」だった。江戸崎という岬もあるのかと、改めて地図を調べてみたら、そこが稲敷市の中心だった。もちろん、そこは岬ではなかった。実際には岬ではないのに「崎」という地名がついている場所は、全国にたくさんあって、ここもそのひとつだった。
それで、今回は前回積み残しの霞ヶ浦の岬を訪ねてやってきたが、そのほとんどがすっぽりと稲敷市に収まっているくらい、北は霞ヶ浦、南は利根川の間に展開する市域は広い。その、西の端にあるのが妙岐ノ鼻である。
葦が一面に広がる岬は、ちょうど三角定規のような形で、青い水面と、遠くに浮かぶ筑波山の特徴ある山容が、みごとな景色をつくりだしている。
これだけ美しく広い芦原を眺めるのは、十年ばかり前にこの利根川を遡ったところにある渡瀬遊水池を訪ねた時以来のような気がする。ここは、規模は渡瀬とは比較にならないくらい小さな芦原だが、霞ヶ浦で自然の水辺がそのままに残されている貴重な場所である。さまざまな野鳥のサンクチュアリでもあり、ヨシズなどに使う葦の刈場としても守られきたものだろう。
葦と言ったり芦と書いたり、かなりいいかげんだが、もともとこのイネ科の植物は、ヨシもアシも同じものである。“難波の葦は伊勢の浜荻”というがごとく、地域によっても呼び名が異なるようだが、日本人の好きな言い換えで「アシ」では「悪し」に通じるというので「良し」という呼び名が定着した、ともいわれる。
霞ヶ浦の水辺は、今ではそのほとんどがコンクリートで護岸されているが、その昔はこんな景色がぐるりと取り囲んでいたものだろう。
いや、案外それは霞ヶ浦だけのことではなく、この国のかなりの面積をそんな景色がカバーしていた、と考えられる。なにしろ、この国は古くからその名も「とよあしはらのみずほのくに」という。
稲敷大橋の上に自転車を止めて、しばし妙岐ノ鼻を眺めていると、そんなことも思ってしまう。
35度57分32.36秒 140度28分6.94秒


たしかに渡瀬遊水池は壮観でしょうね。今回は霞ヶ浦・利根川だから葦なのでしょうが、海沿いの岬では少ないのではありませんか。
私は屋根、囲い、敷物、よしずから葦船や多様な日用品など、素材として創意工夫した地域の生活者の知恵に興味があります。
汽水域がある海岸があれば、そこでは、葦も生えているかもしれませんけれど…。
それに、琵琶湖など淡水系の岬もまだ残っていますし…。
とりあえず、あと少し霞ヶ浦と北浦の岬を巡れば、茨城県も終了です。